「挑戦から生まれる革新」河西康宏さん


 マスカットジパングは,岡山県が誇る名産マスカット・オブ・アレキサンドリア(以下,アレキ)の伝統を受け継ぐ後継品種として,林ぶどう研究所が開発したものだ。それゆえ,多くの生産者がアレキの栽培経験を持ち,その経験をマスカットジパングの生産拡大に生かしてきた。繊細な技術が求められるマスカットジパングの栽培には,同じく繊細な管理を必要とするアレキの経験が心理面でも技術面でも非常に有効に働くからだ。

河西家は,岡山市と並ぶぶどうの一大産地・総社市で,祖父の代からぶどう栽培に取り組んできた。

けれど,河西さんは違う。河西さんは今も昔もピオーネの作り手だ。ピオーネといえば黒系ぶどう。緑系のマスカットジパングやシャイン・マスカットとは着色管理などの面で栽培上のポイントが異なる。だから,ピオーネの作り手がマスカットジパングにチャレンジするのは少し珍しい。

 

河西家は,岡山市と並ぶぶどうの一大産地・総社市で,祖父の代からぶどう栽培に取り組んできた。そんな環境で生まれ育ったからこそ,河西さんもやはり幼い頃から自然とものづくりへの関心を寄せていたという。社会人となってしばらくは岡山県内で宝飾品や文具などさまざまな商材の販売の仕事をしていたが,次第に自分で誇りを持って育てたものを販売したいという気持ちが強くなり,15年前から家業のぶどう栽培に携わるようになった。

河西康宏さん。マスカットジパングも試験栽培が始まった頃から初期メンバーの一人として生産を続けている。そのポテンシャルの高さに期待してのことだ。

就農当初は30アールほどだった農園も,現在では1ヘクタールとなった。半分以上は主力商品のピオーネの生産に充てているが,シャインマスカットや紫苑,そしてマスカットジパングも試験栽培が始まった頃から初期メンバーの一人として生産を続けている。そのポテンシャルの高さに期待してのことだ。

 

マスカットジパングがそのポテンシャルを存分に発揮するためには,もっと多くの生産者が栽培に取り組み,流通量を増加させていくことが必要だ。そのためにできることは何か?河西さんはいつも知恵を絞っている。手間ひまをかけるのが当たり前のぶどう栽培であるが,どこか省力化できるポイントはないだろうか?1kgを超える房のマスカットジパングはたしかにインパクト抜群だけど,価格は随分と高くなる。むしろ800g程度に抑えて一般消費者がちょっと背伸びできるくらいの方が実は喜ばれるんじゃないだろうか?実ったぶどうも生果で販売するだけでなく,マスカットジパングのみずみずしさと粒の大きさを生かせるフルーツ大福にしてみてはどうだろう?

河西康宏さんと会話をしているとさまざまなアイデアが出てくる。とにかく多くの人に美味しいぶどうを届けたい。そのために技術を突き詰めたい。それは就農した15年前から変わらない思いだ。

河西さんと会話をしているとさまざまなアイデアが出てくる。とにかく多くの人に美味しいぶどうを届けたい。そのために技術を突き詰めたい。それは就農した15年前から変わらない思いだ。河西さんは本当に優しい表情と柔らかな物腰の持ち主だが,言葉の端々から挑戦心とぶどう栽培への熱い想いが伝わってくる。

 

成功の反対は失敗ではない。挑戦しないことだ。挑戦なくしてマスカットジパングの成功もない。一人でも多くの人をぶどうで笑顔にするために,河西さんは今日も総社の畑で挑戦を続けている。

一人でも多くの人をぶどうで笑顔にするために,河西さんは今日も総社の畑で挑戦を続けている。